歴史と技術、芸術と哲学が交差するモーターサイクルの到達点 ── ブラフシューペリア S.S.100。移動のための道具などという次元を遥かに超越した、100年にわたる伝統と革新。
その名は、時代を超えて世界中のライダーたちを魅了し続けてきました。圧倒的なスピード、研ぎ澄まされたクラフトマンシップ、そして妥協なき美学。それらすべてを凝縮したこのモーターサイクルは、常識という檻を打ち破り、ひとつの思想、あるいは生き方を象徴する存在といえるでしょう。今、ブラフシューペリア S.S.100は、往年の伝説を継承しつつ、現代の技術と感性を纏い、究極の姿で蘇りました。
ブラフシューペリアは、1919年、英国ノッティンガムの地において、ジョージ ブラフの手によって創設されました。彼はもともと、父 ウィリアム ブラフが経営するモーターサイクルメーカー「ウィリアム ブラフ&サンズ」にて、技術と製造の基礎を学び勤務していました。しかし、自身が思い描く理想のモーターサイクル。すなわち「最高級であること」「美と性能を高次元で両立させること」を形にするには、父の会社の枠では収まりきらないという確信がありました。ウィリアムが好んだのは、振動の少ない水平対向 2 気筒エンジンを核とする、堅実で信頼性に富んだ設計。対するジョージは、大排気量の V 型 2 気筒エンジンを駆使した、よりダイナミックで美学に満ちたマシンの可能性に惹かれていたのです。こうして彼は、父のもとを離れ、自らの哲学を具現化すべく独立の道を選びました。「シューペリア(Superior)」すなわち「至高 / 優れた」という名を冠したブランドには、父の製品に対する対抗心すら滲ませながらも、技術者としての信念と誇りが込められていたのです。ブラフシューペリアはやがて、既存の常識を打ち破る高性能と高品質を掲げ、単なる移動手段にとどまらない、乗る者の誇りを映す芸術品として存在を確立していきます。その象徴こそ、1924年に発表された S.S.100 です。時速 100 マイル(160 km/h)超という驚異的な走行性能を実現し、「時速 100 マイルの走行性能を保証する世界初の市販モーターサイクル」として、その名を歴史に刻みました。さらに、顧客に納車されるすべての車輌が、実際にこの速度を達成してから送り出されるという徹底した品質哲学が、多くの熱狂と称賛を集めることとなります。S.S.100 は、1924年、1929年、1937年の 3 度にわたり世界速度記録を樹立。その名は、モーターサイクル史に燦然と輝く伝説として、今なお語り継がれています。
ブラフシューペリア S.S.100 を語るとき、あるひとりの伝説的人物の名を避けて通ることはできません。それが、トーマス エドワード ロレンスです。(T.E.ロレンス)
「アラビアのロレンス」として広く知られる英国陸軍将校にして、稀代の知識人、そして無類のモーターサイクル愛好家です。彼はこのマシンに深く心を奪われ、生涯で 8 台ものブラフシューペリアを所有しました。しかも、そのすべてに名前をつけるほど深い愛着を抱いていました。卓越した操縦性、芸術品のように洗練されたデザイン、そして当時としては驚異的なスピード性能。ロレンスがこのマシンに抱いた感情は、もはや「信仰」に近いものだったと形容されるほどです。書斎では古典語に親しみ、戦場では部隊を率い、そしてモーターサイクルに跨れば風と一体になる。ロレンスにとって、S.S.100 は人生のあらゆる側面と共鳴する「もうひとつの自分」であったのかもしれません。しかし、運命はときに非情です。彼が命を落としたのは、1935年、7 台目のブラフシューペリアを駆っていたときの事故によるものでした。道路の窪みにより視界が遮られ、前方にいた2人の少年の自転車を避けようとしてハンドルを切りました。その際、バランスを崩して車輌から投げ出され、頭部に重傷を負いました。彼はヘルメットを着用しておらず、事故後、ボヴィントン軍病院に搬送されましたが、昏睡状態が続き、6日後の5月19日に46歳で逝去しました。※1
皮肉ともいえるこの最期は、同時に S.S.100 の名にさらなる伝説性を与えることとなります。ロレンスという歴史的存在がその命を託したマシン。その事実は、S.S.100 に「英雄と共に生きたモーターサイクル」という、他に代えがたい物語性を刻み込みました。そして今なお、その物語は終わることなく語り継がれ、S.S.100 はひとつの象徴として、時代を超えて輝き続けているのです。
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ロレンスの死は、モーターサイクル用ヘルメットの普及に大きな影響を与えました。彼の事故を担当した神経外科医ヒュー ケアンズは、ロレンスがヘルメットを着用していなかったことに注目し、頭部外傷の研究を開始します。その結果、彼はヘルメットの着用が命を救う可能性があると結論づけました。ケアンズは、第二次世界大戦中に英国陸軍の軍用モーターサイクル兵士に対してヘルメットの着用を義務付けるよう提案し、1941年に実現。その後の研究で、ヘルメットの着用により死亡率が大幅に減少したことが確認されました。彼の研究は、民間人にもヘルメットの着用を推奨する基礎となり、最終的には1973年に英国でモーターサイクル用ヘルメットの着用が法的に義務付けられるきっかけとなりました。このように、ロレンスの悲劇的な死は、ケアンズの研究を通じて、モーターサイクル用ヘルメットの開発と普及に大きな影響を与え、多くの命を救うことにつながりました。
長い沈黙を破り、ブラフシューペリアは2013年、イタリア ミラノで開催された EICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)の舞台において、S.S.100の復活を高らかに宣言します。それは単なる復刻ではなく、オリジナルのDNAを忠実に受け継ぎながら、現代の技術によって刷新された再創造といえるプロジェクトでした。かつて時代の最前線を駆け抜けた名車 S.S.100 が、再びこの世界に姿を現したのです。そして、新たに生を受けたS.S.100には、模倣や懐古の影など微塵もなく、ただ研ぎ澄まされた意志と情熱のみが宿っていました。求められたのは、かつての形をなぞることではなく、「何を受け継ぎ、何を更新するか」「もし、あのジョージ ブラフが今も生きていたなら、どのようなモーターサイクルを生み出していたか」という問いに対する、思想的な答えでした。伝統とは、単なる記憶の継続ではなく、記憶に向き合い、それを新たな価値として再構築する行為。S.S.100 の再臨とは、まさにその営み。プロジェクトを率いたティエリー アンリエットは、過去の遺産に敬意を捧げながらも、それに縛られることを良しとしませんでした。彼が目指したのは、ジョージ ブラフの精神。「最高であることとは何か」を問い続けた姿勢を、現代という時代の文脈で再び問い直すこと。復活した S.S.100 は、かつての造形や理念の痕跡を内包しつつ、それ自体が新たな命を持った存在へと昇華されています。それは一種の物質に宿る思想ともいえる佇まいで、単なる車輌ではなく、哲学的な問いを体現するかのように、そこに在ります。このモーターサイクルは語ります。「速さとは何か」「美しさとは何か」「継承とは、革新とは」
── その問いに耳を傾けたとき、S.S.100 はただの乗り物ではなく、自らの価値観を映し出す鏡となるでしょう。ジョージ ブラフはこのS.S.100に何を思うだろうか。その想像すら、またひとつの哲学として、このマシンの中に息づいているのです。
S.S.100 が搭載する心臓部は、排気量 997cc の水冷 V 型 2 気筒エンジン。88 度という独自のバンク角を備えたこのエンジンは、イタリアの名門、ドゥカティやモト グッツィの影響を受けながらも、ブラフシューペリアならではの独特な鼓動を刻みます。最高出力は 102 bhp (75 kW) / 9600 rpm〈Euro 4 規格準拠〉、乾燥重量は 190 kg を下回る軽量設計。俊敏さと剛毅さを兼ね備えたその走りは、乗る者の感性を揺さぶります。フレームおよびスイングアームには、チタン、アルミニウム、マグネシウムといった航空機産業に用いられるハイグレード素材を惜しみなく投入。極限までの軽量化と高剛性の両立を果たし、芸術的ともいえる車輌構成を実現。前後サスペンションには、オーリンズ製 ユニットを採用。とりわけフロントには、他に類を見ないダブルウィッシュボーン方式を導入。これにより、コーナリング時の車体姿勢は際立った安定性を発揮し、往年の S.S.100 が示していた走行美は、かつての魂を宿しながら現代のライディングフィールとして再構築されています。
ブラフシューペリア S.S.100のデザインは、ひと目見た瞬間にただならぬ存在感を放ちます。リスペクトされた特徴的な長くラインを描くフューエルタンク、クロムとアルミニウムによる絶妙な質感のコントラスト、そして18本スポークの削り出しアルミホイールと、すべてが機能美を超えた視覚の芸術として昇華されています。すべての車輌は熟練工による完全手作業。使用パーツも丁寧に自社で制作するオリジナル部品を採用し、1台あたり数百時間を要する工程を経て、一つひとつの車輌が唯一無二の作品として生み出されています。さらに、ライディングポジションや足回りの調整も、所有者の好みに応じてオートクチュール。まさに、乗る人の人生に寄り添うパーソナルモーターサイクルといえるでしょう。
風を切り裂きながら、曲がりくねったワインディングロードを駆け抜ける S.S.100。その挙動は鋭く、それでいて実に滑らか。ひとたびスロットルをひねれば、車輌はライダーの意図を汲み取り、まるで意識の先を読んでいるかのようにラインを描いていきます。特筆すべきは、その極めて自然なハンドリング。低速から高速域に至るまで、あらゆるシチュエーションにおいて車体の挙動は明瞭で、どこまでも信頼に足る操縦感覚をもたらします。俊敏性と安定性が高次元で融合し、ライダーは路面の変化や荷重の動きを、まるで自らの筋肉で感じ取っているかのように把握。制動を司るのは、フランスのベルリンガー製ブレーキシステム。指先に伝わるコントロール性は驚くほど繊細かつ高精度で、減速のすべてがライダーの意志と一致します。そこには、電子制御では得られないダイレクトな感触が宿り、メカニカルでありながら有機的な響きを持つ、官能の減速フィールが存在します。だが、このマシンの真価は、数値に還元できる性能では語りきれません。その魅力は、五感を通じて交わされるライダーとの対話にあります。サドルに身を沈めた瞬間、車輌はただの金属の集合体ではなく、まるで意志を持つかのように応えはじめる。S.S.100 とのライディングは、走るという行為に深い意味と歓びを与える、まさに官能の体験です。
ブラフシューペリア S.S.100 は、誰のためにも作られたモーターサイクルではありません。それは、スペックや加速性能を追い求めるのではなく、機械に込められた思想や美学、そして時を超えて受け継がれる精神性に共鳴する者のために存在します。このマシンに跨ることは、優れた車輌を所有するという行為を超えています。それは、人生における「美」と「質」に対する確かな哲学を持ち、選び抜かれたものと共に時を重ねることの意味を知る者にだけ許される行為といえるでしょう。かつての英国紳士たちがそうであったように、S.S.100 を所有するということは、自らの価値観を体現し、静かに誇りを纏うことに他なりません。限定生産という形式にとどまらず、すべてがオーナーの意志を反映した一点もの。仕上げ、仕様、細部に至るまで、同じものはふたつとして存在しません。一台ごとに異なる存在理由を持ち、所有者それぞれにとってかけがえのない個体となるのです。その姿は、過去から現在、そして未来へと続く歴史の系譜に連なると同時に、モーターサイクルという存在の本質を問いかけてきます。それは「速さ」や「革新性」では語りきれない、深く豊かな時間と関係性の中でのみ見えてくる真の価値。所有者の美意識と信念を映し出す、ひとつの生き方そのもの。時代を超えて息づく、魂を持ったモーターサイクルです。
ブラフシューペリア S.S.100
── それは、歴史と共に生き、技術の頂点を極め、美の本質を問い続ける存在です。S.S.100 が動き出した瞬間、ライダーはもはやモーターサイクルを操るの者ではなく、その世界の一部となります。造形に宿る静謐な緊張感、操作系に秘められた精密な応答、そして車輌そのものに息づく精神。それらが織りなす体験は、まるで自身の内奥に触れるような、忘れがたい時間をもたらします。見るたびに息をのむ存在感、触れるたびに伝わる質感、そして走るたびに広がる情景。常に新たな発見を与えてくれるこのマシンは、あなたにとって単なるモーターサイクルではなく、人生をともにするパートナーとなるでしょう。
伝説は、今もなお走り続けています。そのハンドルを握るとき、新たな物語があなたのもとから始まります。
| エンジン | |
|---|---|
| エンジン形式 | 997cc 水冷 DOHC 88°V ツイン 4 ストローク 各気筒 4 バルブ / チェーン+ギア複合カム駆動 |
| 最高出力 | 102 bhp(75 kW)/ 9600 rpm〈Euro 4〉 |
| 最大トルク | 87 Nm(64 lb‑ft)/ 7300 rpm |
| 圧縮比 | 11 : 1 |
| 燃料供給方式 | 電子制御燃料噴射(Synerject ECU) 50 mm スロットルボディ × 2(各 1 インジェクター) |
| ギアボックス | 6 速 |
| クラッチ | 湿式多板クラッチ(油圧式) |
| 車体 | |
|---|---|
| フレーム | 削り出しチタンフレーム+チタン製サブフレーム |
| フロントサスペンション | アルミ削り出し Fior‑タイプフォーク チタン製リンク式プリロード / リバウンド調整式モノショック(トラベル 120 mm) |
| リアサスペンション | アルミ鋳造スイングアーム(エンジン後部支点) プログレッシブリンク式モノショック(プリロード / リバウンド調整、トラベル 130 mm) |
| キャスター / トレール | 23.365° / 93.65 mm(フォークオフセット 38 mm) |
| フロントブレーキ | φ320 mm ステンレスディスク × 4 4 ピストン Beringer ラジアルキャリパー × 2 |
| リアブレーキ | φ230 mm ステンレスディスク × 1 2 ピストン Beringer ラジアルキャリパー × 1 |
| ホイール | アルミ削り出しホイール(18 本スポーク) |
| フロントタイヤ | 120/70 – 18″(リム幅 3.50″) |
| リアタイヤ | 160/60 – 18″(リム幅 4.25″) |
| 乾燥重量 / 配分 | 186 kg〈前後 50:50〉 |
| 限定生産台数 | 300 台 |
| 希望小売価格 (消費税10%込) |
¥ 13,442,000 |
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