Brough Superior | ブラフシューペリア : バート ル バック。1920年代に世界最速を記録し、ブランドの名を不滅のものとした伝説のライダー兼エンジニア。

バート ル バック /
Bert le Vack

── ブラフシューペリアを彩った
伝説的エンジニア兼ライダー

ブラフシューペリア
との出会いと背景

バート ル バック(Herbert Bert le Vack、1888年生まれ)は1920年代を代表するモーターサイクルレーサーであり、「ブルックランズの魔術師(Wizard of Brooklands)」の異名で知られた名チューナーでもあります。第一次大戦前からダイムラー社やインディアン(Hendee社)で経験を積み、戦後にはJAP社(J.A.プレストウィッチ)にてレーシングエンジニアを務めました。その卓越した腕を見込まれ、1923年頃にジョージ ブラフからブラフシューペリアのワールドスピードレコード挑戦を託される形でチームに迎えられます。以降、ル バックはブラフシューペリアのライダー兼開発者として活躍し、同社の名声を高める原動力となりました。

S.S.100と世界速度
記録への挑戦

1924年、ル バックはブラフシューペリアの最新モデル「S.S.100」に跨り、フランス アルパジョン(後にモンレーリに近い直線道路)で当時のモーターサイクル世界最高速度記録に挑みました。その結果、平均速度119.05マイル(約191.5km/h)という驚異的なスピードを叩き出し、平均速度としてのモーターサイクル絶対速度記録を更新します。この快挙は「時速100マイルの壁」を打ち破るものとしてセンセーショナルに報じられ、ル バックは1924年だけで他にも合計9つの世界速度記録を樹立しました。後年の1929年には、同じくブラフシューペリアの改良型マシンで記録を207.33km/h(126.75mph)まで押し上げ、再び世界最速の座をその手に収めることとなります。これらの偉業により、ブラフシューペリアS.S.100は当時最速のモーターサイクルとして名を馳せることになりました。

エンジン開発と
チューニングの功績

エンジニアとしてのル バックは、ブラフシューペリアの心臓部であるエンジン開発にも大きく貢献しました。彼はJAP社においてバル ペイジらと共に大型V型2気筒エンジン(排気量約1000cc)の開発に携わり、この「スーパービッグツイン」エンジンは、S.S.100をはじめとするブラフシューペリア車に搭載され、高性能の源となりました。実際、1924年の記録走行に使用された996ccのJAP製OHVエンジンはル バックによって特別にチューニングされたもので、アメリカ製モーターサイクル(インディアンやハーレー)の牙城を崩すヤンクバスターとも称された逸品でした。また、燃料混合にも独自の工夫を施し、自ら調合した特製燃料でエンジン性能を極限まで引き出していたとも伝えられています。そのチューニング技術は当時多くのメーカーからも頼りにされ、ブラフシューペリアをはじめゼニス、ニューインペリアル、HRDなど様々な競合メーカーのマシンにも彼の開発したエンジンが搭載されました。彼の手がけたエンジンはT.E.ローレンスが愛用したS.S.100にも搭載されており、直接調整を担当していた可能性もあると伝えられています。

その他のレース活動と
業界への影響

レーサーとしてのル バックは、各種レースやイベントでも数々の伝説を残しました。1914年のマン島TTレース(ライトウェイト級)では、ゴール前でマシンが止まるアクシデントに見舞われながらもモーターサイクルを押して完走し、2位表彰台を獲得する執念を見せています。英国ブルックランズ サーキットでは卓越した高速走行を披露し、1922年には同サーキット史上初めて平均速度100マイルを超えるラップを記録して「Brooklandsゴールドスター」を獲得しました。またブルックランズで開催された唯一の500マイル耐久レースで優勝し、さらに同日中に2度の200マイルレースにも勝利する離れ業も成し遂げています。こうした功績によりブルックランズの魔術師と称えられたル バックは、その卓越したライディング技術とスピード記録への情熱から、当時最高のモーターサイクルレーサーの一人と目されました。

彼の開発したエンジン群は各メーカーのレースシーンで勝利をもたらし、モーターサイクル業界全体にも大きな影響を与えています。レース活動の傍らで新人育成や技術交流にも携わり、後進のライダーやエンジニアからも一目置かれる存在でした。1931年、スイスでモトサコッシュ社のサイドカー マシンテスト中の事故により惜しくも他界しましたが、その生涯で築いた功績は今なお語り継がれています。

後年の顕彰とレガシー

ブラフシューペリア社は、黄金時代を支えた立役者であるル バックの偉業を今日に至るまで讃え続けています。本国サイトのヒストリーセクションでも、彼は「1920~30年代にかけて大成功を収めた伝説的英国人レーサー」であり、ブラフシューペリア車を操って無類の強さを発揮した人物として紹介されています。さらに2021年には、現代に復活したブラフシューペリア社から彼の名を冠した超限定モデル「S.S.100 Bert le Vack」が発表されました。このモデルは1924年にル バックが打ち立てた9つの世界速度記録にちなみ、わずか9台のみが生産される特別仕様車です。クラシックなS.S.100を現代の技術で蘇らせ、チタンストラップ付きの燃料タンクや専用グレー塗装など随所に彼へのオマージュが込められた逸品となっています。ブラフシューペリアはこの記念モデルを通じて、ル バックのスピリットと功績を21世紀のライダーにも伝えようとしています。彼が遺した物語は、ブランドの伝統と共にこれからも生き続けていくことでしょう。

Brough Superior | ブラフシューペリア : バート ル バック。1920年代に世界最速を記録し、ブランドの名を不滅のものとした伝説のライダー兼エンジニア。

時を超えて蘇る、
スピードの記憶

彼が遺した記録と情熱は、今なお色褪せることはありません。ティエリー アンリエット率いる新生ブラフシューペリアは、バート ル バックへの深い敬意を込めて、その名を冠した記念モデル S.S.100 Bert Le Vack を世界限定9台で製作しました。伝説にふさわしい輝きを宿したこの特別なモデルは、1920年代の記憶と、最新技術が融合する走るオマージュ。かつて風を制した男の魂を、今、現代のライダーへと継承します。

Brough Superior | ブラフシューペリア : バート ル バック。1920年代に世界最速を記録し、ブランドの名を不滅のものとした伝説のライダー兼エンジニア。