ローレンス
「リーピング レナ」
── 栄光の記憶と共に蘇る現代のサイドカー
2023年3月末、優れたアートブックで知られるTASCHEN(タッシェン)社より刊行された豪華書籍『Ultimate Collector Motorcycles』ボックスセットにおいて、ブラフ シューペリアは、特別な存在感を放っています。本書に収録された全100台の希少かつ貴重なモーターサイクルの中で、ブラフ シューペリアは実に5台が掲載されており、1ブランドとしては最多のシェアを誇ります。その中には、同書の表紙を飾る1938年製「ゴールデン ドリーム」、さらには現代に蘇ったアストンマーティン AMB 001も含まれています。後者は、ブラフ シューペリアがトゥールーズで製造を担うことで、ブランドの新たな命運がフランス南西部で育まれていることを物語っています。

新たな伝説
「リーピング レナ」
ティエリー アンリエットが長年温めていたアイデア ── それはかつて英国ノッティンガム工場で製造されていた伝説のサイドカー「ストレート4 コンビネーション」を、現代の技術で蘇らせることでした。「4」とは、並列4気筒の意味であると同時に、サイドカーに付随する車輪の数──前輪、バスケットの車輪、そして並列に配置された2つの後輪をも意味します。それらは、卓越した安定性と走行性をもたらします。ブラフ シューペリアの現ゼネラルマネージャー、アルベルト カスターニュは、かつて戦前に製造されたブラフ シューペリアのうち、約3分の1がサイドカー付きであったと語ります。当時の車輌は、エンジンの牽引力が優れていたため、家族の移動手段としても多く用いられていました。

デザインと技術の結晶としての一台
今回の「リーピング レナ」は、最新のユーロ5基準に初めて適合した「ローレンス」モデルをベースに設計されました。デザインを手がけたのは、トゥールーズ本社に籍を置くレミー ラヴェルヌ。彼は「ベル エポック」にインスパイアされ、バスケット部分にアール デコの優美な曲線美を落とし込みました。製造は「金属と溶接の魔術師」と称される職人エリックが担当。チタン製のサブフレームとアルミニウム板を用いた構造は、軽量かつ剛性に優れ、全体で約120時間をかけて丁寧に仕上げられました。
跳ねるように駆ける、その名の由来
「リーピング レナ」という名は、1932年にオーストラリアのアラン ブルースがウィーンで時速200kmを突破した、名高きブラフ シューペリア製サイドカーにちなんでいます。当時、彼が搭乗したサイドカーは1000ccのJ.A.P製エンジンを搭載し、乗客の代用として65kgのバラストを積載していたと言われています。
実走行に見る美と機能の融合
UTACによる正式な車輌承認と納車までの短い期間を活かし、私たちはこのサイドカーを南仏タルン地方の美しい道で実走テストする機会を得ました。美意識の高いオーナー、マーティン氏の審美眼にも叶うこのバスケットに身を沈めれば、その快適性と静寂性、そして路面を捉える軽快な足取りに心が震えます。右カーブでは、空荷の状態でも驚くほどスムーズにトレーラーが路面を離れ、まるで映画のスタントシーンのような浮遊感を生み出します。一方で左カーブでは、バスケットにブレーキキャリパーが無いにもかかわらず、安定性は損なわれず、ローレンス特有の広めのハンドルバーが実に扱いやすく設計されています。フロントにはベリンジャー製ブレーキシステムを採用し、確かな制動性能を確保。後輪には余分なトルク伝達機構が加えられており、加速時や制動時の挙動を穏やかに保ちます。

試乗の終わりに ──
記憶と未来が交差する
約300kgの重量を持ちながらも、軽量なリムと高剛性の構造が相まって、まるで風と遊ぶような操縦感覚を生み出すこのサイドカー。特に、即興のオフロード走行では、そのサスペンション性能が心地よい柔軟性を発揮しました。こうして誕生した唯一無二の「リーピング レナ」は、過去の栄光と現代の技術が交錯する、真に特別な存在であることを、あらためて確信させてくれます。
